【覚え書】台湾で沖縄県の地上波テレビ局を受信するには

 「台湾で沖縄県の地上波放送局を直接受信して視聴したい!」 ということで2018年12月から調査を続けています.実地・文献調査で得られた知見と懸念点,過去の調査結果,今後の調査計画について書いていきます.(初稿:2025年3月26日,最終編集:2025年4月16日)

 

2025年4月16日追記:

2025年4月13日に新北市宜蘭県境の桃源谷,4月14日に宜蘭県亀山島の401高地にて与那国中継局(NHK総合EテレRBC,QAB,OTV)の受信に成功しました.

2025 年 4 月 13 日在新北市與宜蘭縣交界的桃源谷,4 月 14 日在宜蘭縣龜山島 401 高地,成功接收到日本沖繩縣與那國中繼站的電視台(2 個 NHK 電台 + 3 個商業廣播)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お願い:どなたかこの記事をお読みになって,台湾で与那国中継局の地上波デジタル放送局を受信された方がいらっしゃいましたら,ぜひとも私にご連絡ください!

注意:如果你在台灣讀到這篇文章,並已成功接收到來自與那國中繼站的數位無線電視,請與我聯繫!

 

〇実地調査で得られた知見

・台湾東岸部では平野部も含めて,昼夜間にかかわらず沖縄県沖縄本島の親局)のAMラジオが受信可能(これはこれですごい話だが)

・台湾東岸部の山間部(標高500m程度)では,与那国中継局,宮古島中継局(距離350㎞,出力1kW)のFMラジオが受信可能(逆に平野部では沖縄のFMラジオはまったく受信できなかった.この結果は,FMが使用するVHF帯は直進性が強いために,出力が低い場合,前提として送信点と受信点との間で見通し可能でないと受信が難しいことを意味している)

・台湾東岸部での沖縄県のテレビ局の受信可能性は,距離的に最有力と考えられる与那国中継局であっても,①100㎞強離れていること,②低出力(1W)であること,③見通し可能と判定される地域が軒並み標高400m以上の山間部にあること,の3点により極めて低いものになっている

・しかし,地デジが使用する周波数(UHF帯)と近いFM(VHF帯)であれば与那国中継局からの電波が台湾側で受信できた事例,日本国内では出力が1Wであっても150㎞超の遠距離受信を成功させた事例(以下,「リアル電波少年」さんによる参考資料)を踏まえると,台湾で日本の地上波局をワンセグで受信できる可能性がないわけではなさそうである

・実はこれが最も重要な話だが,以上の懸念点に加えて天候の問題が私にとって最大の難点である.私が台湾を訪れると100%の確率で雨が降るので,安定した調査がしづらい(過去5回の訪問中すべて大雨,悲しい)

 

〇文献(ネット)調査で得られた知見

・受信可能性を考えるうえでは,ネット上にある台湾側での与那国局の受信報告も重要な情報源となろう

・「接收(受信する)」,「與那國」,「電視(テレビ)」,「宜蘭」などの単語を組み合わせて検索すると,台湾で沖縄県の地上波放送の受信が可能なのかについて議論しているページがいくつかヒットした.以下はその抜萃と筆者による見解である

・2006年,「體驗接收日本沖繩那霸市地上波(筆者訳:沖縄県那覇市の地上波放送受信を体験)」と題したスレッドにおいて台湾南投県にある標高3,400m超の合歓山で那覇市の地上波放送を受信したとある.しかし,筆者はこの投稿者が具体的に何を受信したのかについてはっきりと読み取ることができなかった.チャットのやりとりとタイトルから推察すると,おそらく那覇市のFM放送を受信したものと思われるが,それが実際に500㎞以上も離れた那覇からの放送局なのかは疑わしい.ただし,一点だけこの投稿者を譲歩するとすれば,合歓山は,その標高の高さからごく一部ではあるが約300㎞離れた石垣島も見通し可能であるため,先島諸島からの電波を受信できる可能性は高いといえる

参考資料:

www.myav.com.tw

・2015年には,「是否能收得到日本地上地上デジタル訊號(筆者訳:日本の地上デジタル信号を受信できるか否か)」というスレッドが建てられ,議論がなされているが,実際に受信できるかは確かめてはいないようである.

www.mobile01.com

・2023年,「從日本購買電視回來能看地上波/BS嗎?(筆者訳:日本で購入したテレビを台湾に持ち帰って地上波とBS放送を視聴できますか?)」というスレッドでは,ある投稿者が私のブログを引用しつつ(衝撃!),パラボラアンテナの設置や調査すべき場所・標高(宜蘭平野で亀山島の標高よりも高い建物)など具体的な指南をしているが,「因為我沒住在宜蘭 所以也不知接收效果如何(筆者訳:私は宜蘭に住んでいないので,受信にどれだけ効果があるかはわかりません)」と述べている.

・この投稿者の発言に対して筆者があえて意見すると,「前提就是你家的高樓層社區要是能看到龜山島 而且樓層要高過龜山島 如果有算成功一半(筆者訳:前提として,自宅の高層マンションは,亀山島を眺めることができて,かつ亀山島よりも高ければ,半分成功したようなものだ)」は,半分正解で半分不正解であろう.なぜなら,宜蘭市内の建物は,最高でも105mの「頭城世界灣」があるに過ぎず,亀山島(最高:401m)の高さに及ばないからである.一方で,宜蘭市の標高400m以上の山間部では,与那国島が見通せる範囲にある地域が散見され,投稿者により指摘されている受信点の高さの重要性が窺える.

www.mobile01.com

oneseg-d.hatenablog.com

market.591.com.tw


・以上より,台湾側でも沖縄県,特に与那国島からのテレビ・ラジオ放送局を直接受信することに対しては,遅くとも2000年代以降から一部の界隈ではあるが関心が持たれていたようである.ところが,それが実際に可能であるかについては,受信側(受信する場所や標高,使用機材)や送信側(中継局の出力や周波数,距離)の両面から議論されてきた形跡がみられるものの,現実に実行し,ましてや受信を成功させた事例は台湾側にもないようである

 

〇過去の調査結果

【第1回調査】

日時:2018年12月

場所:宜蘭県蘇澳鎮豆腐岬

天気:雨

https://maps.app.goo.gl/d3Mu3Y63cPLgyaMRA

結果:沖縄県内のAMラジオ3局を受信(沖縄本島の親局).ワンセグとFMは受信不可.

考察:当時,豆腐岬を受信点として設定した理由は,与那国中継局から直線で最近距離にあるからであった.ところが,豆腐岬は,標高が低く,与那国島から見通し範囲外にあることから,直進性の高い周波数を使用するFM,テレビの電波が到達していなかったものと考えられる.

 

【第2回調査】

日時:2024年10月

場所:宜蘭県および新北市境界の桃源谷観景処

天気:強雨

https://maps.app.goo.gl/UCzsQgMm1FfixZy78

結果:沖縄県内のAMラジオ(沖縄本島の親局,石垣局),FMラジオ(与那国中継局,宮古島中継局)を受信.ワンセグは受信不可.大雨,濃霧,強風により数十分で調査を断念.

考察:桃源谷において与那国中継局のFMラジオが受信できたのは,距離が約120㎞離れているとはいえ,見通し範囲内にあることが一番の要因であろう.また,宮古島中継局(NHK FM,85.0MHz)のFMラジオが受信できたのは,出力が1kWと非常に高いことを前提として,見通し範囲外とはいえ送信点と受信点との間に地理的な障壁がまったくないことが大きな要因であろう.これは,日本の瀬戸内海周辺で200㎞超離れた大阪からのFMラジオ放送を受信したケースと類似している.

youtu.be

 

〇今後の調査計画

【第3回調査】

日時:2025年4月

場所:HeyWhatsThat(見通し判定をするサイト)で与那国中継局からの見通し判定で赤色となった場所を中心に選択

 

調査地①:亀山島401高地

天気:晴天

https://maps.app.goo.gl/xB4AkqhoNiYcw3kv8

結果:沖縄県内のラジオ(FM・AM),ワンセグの受信に成功.

補足:標高と与那国からの距離を考えると,与那国中継局の地上波デジタルテレビが受信できそうな最有力候補地.与那国中継局からの距離は直線で約110㎞,標高は約400m.頭城の港から船で上陸.

 

調査地②:桃源谷

天気:曇り

https://maps.app.goo.gl/HMaGerpwfbBvLnxH7

結果:沖縄県内のラジオ(FM・AM),ワンセグの受信に成功.

補足:2024年10月に調査済.ただし,天候不良のため十分な調査時間をとれなかったので,再び調査する予定.与那国からの距離は約120㎞,標高は約500m.貢寮駅から登山口まで無料のバスで移動し,そこから徒歩1㎞.

 

候補地:烏岩角

https://maps.app.goo.gl/ssmDZTmho8xHypKB9

補足:③から徒歩での到達難易度があがる.亀山島を除くと,台湾島内で与那国から最も近い場所.天気が良い日は与那国島がみえるらしく,近年中に与那国島を臨むための展望台が造られるそう.与那国からの距離は約110㎞,標高は300m.東澳駅から徒歩6㎞.

 

候補地:小帽山

https://maps.app.goo.gl/cuYe2iVZhQBNEvi4A

補足:③の烏岩角からやや内陸に位置する山.与那国からやや離れてしまうが,標高が高いので,その分受信可能性があがるか.与那国からの距離は約116㎞,標高は約700m.永楽駅から徒歩8㎞,または,蘇澳駅から1799番バスで永楽里まで移動し,そこから徒歩6㎞.

 

候補地:安平坑林道観景点

https://maps.app.goo.gl/cCTNFFG5xfjpB2sLA

補足:蘭陽平野を見渡せる絶景ポイントとして地元民には知られているよう.与那国からの距離は約121㎞,標高は約500m.冬山駅から徒歩6㎞.

 

候補地:鴬子嶺碑

https://maps.app.goo.gl/gaQUuUHtRHoEgVWf8

補足:この地図を見てもわかるが,沿岸の市街地には見通し可能と判定される地域がないことが今回の調査を難しくさせている.この山の頂上までは車で行けるみたいだが,徒歩で行くとかなり大変そう.与那国からの距離は約127㎞,標高は約1,000m.

 

候補地:蘭崁山

Taiwanの地形図、標高、地勢

補足:海沿いの東澳駅から近いのでそこまで標高は高くないのかと思いきや,台湾の標高図をみると,まさかの1400m超の山だった.日本でたとえると,湯河原駅から徒歩で箱根山に登るイメージか...もはや与那国どころか西表島も見通し範囲に入っている.(西表島には祖納中継局があるが,出力が1Wと低いので受信はより難しいか)筆者は体力や登山に関する知識が乏しいので,実際に調査を遂行するのは非現実的だが,非常に有力な候補地といえるだろう.(どなたか代わりに調査をしてほしいですね)与那国からの距離は121㎞,標高は1450m.

 

・2025年4月の調査では,亀山島の401高地と桃源谷で与那国中継局からの地上波局をワンセグで受信できたことから,台湾領内において「120㎞以内」,「標高400m」,「見通し範囲内」の3条件を満たしていれば,与那国局をワンセグで受信できる確率はかなり高いと言って良いであろう.ただし,これらの条件を満たす地域は,人家の少ない山間部に限られるために,過去に受信報告例が管見の限り見つからないのは確かに納得がいく.また,今回はワンセグでの調査のみであるが,フルセグで受信できるかは不明である.今後の日台両国のDXerたちの挑戦に期待したい(人任せ).